感想 (61) 深山に棲む声2017年03月12日

これまで読んだ本の感想 (その 61)。

「おすすめ」の中で表紙の絵が気になったので読んでみようと思った。

o 深山に棲む声 - 森谷明子

昔話の中の人、現実の人間、それぞれの物語が、いずれも「深山」という立ち入ることを禁じられた山を舞台に描かれている。
一つの話が 4 つの方向 (クニ、東西南北) から描かれた前半部分の 4 編と、それに続く 2 編で構成される。
前半は、昔話的でおどろおどろしい感じもするし、エピソードが断片的に語られ、時系列的にも追いきれない。
後半になると、それまでの断片がつながり、イヒカ と イオエ、昔話の世界で離ればなれになった二人が、現実の世界でようやくめぐり逢える。
なんとも味わい深い優しい感じの物語に仕上がっている。
構成がよく練られ、まさに編み込まれた感じがするファンタジーだった。

感想 (60) 糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ - 42017年01月08日

これまで読んだ本の感想 (その 60)。

これまでも読んでいるシリーズだ。
文庫本が発行され、電子版の価格も下がったので買うことにした。
年末から年始にかけて、こたつでのんびりするのにちょうどよい。

o 糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ - 4 - 吉永南央

今回も連続する複数のエピソードによって一つのストーリーが構成されている。
主人公の お草さん の店 小蔵屋 と同じ町内にあるショッピングモール (というよりも 5 軒長屋の商店) の改装がメインに語られる。
これまで同様、お草さん が危険な目にあったり、店に嫌がらせされてりして、ハラハラさせられるが、人間関係や陶芸家の幻の作品の謎が少しずつ解決されてゆくのは、ホッとした感じがする。
各エピソードには陶芸や陶器にまつわるサブタイトルがつけられていて、その解説が効いている。

感想 (59) 思い出のとき修理します 4 / 本をめぐる物語 一冊の扉2017年01月08日

これまで読んだ本の感想 (その 59)。

去年の内に読み終えていた本について記録しておく。
「思い出のとき修理します」は、これまでに読んだシリーズで、今回で完結する。
「本をめぐる物語 一冊の扉」は、以前読んだことのある、原田マハ さん、朱野帰子 さん の作品と、テレビ・ドラマになった「校閲ガール」が収録されているので選んでみた。

o 思い出のとき修理します 4 - 谷瑞恵

今回は、「結婚」をテーマとする 3 つのエピソードが収録されている。
「時計」にまつわる「謎」や「過去 (思い出)」を解き明かすというストーリーが中心だが、主人公の二人の物語も展開される。
ペアウォッチ、タイムカプセル、そして二人の恋。
ハッピーエンドがすべて「結婚」を意味しているのではないのかもしれない。
これはこれで完結したが、明里と秀司、それに太一、シャッター商店街の新シリーズを期待せずにはいられない。

o 本をめぐる物語 一冊の扉 - ダ・ヴィンチ編集部

タイトルの通り、本に関わるストーリーを集めた短編集だ。
8 人の作者さんによる 8 つの物語、それぞれに趣きがあって楽しめた。
「メアリー・スーを殺して」は、タイトルからは想像できない物語だし、「砂に埋もれたル・コルビュジエ」は実話が元になった感動的な話だし、「校閲ガール」は、ドラマと少しイメージが違うと感じるけれど、それもそれでいいのかもしれない。
でも、一番は、「ラバーズブック」。
自分もアメリカをクルマで旅したことがあった。
街道沿いの田舎町のドライブイン (Diner) に立ち寄ったときのことが思い出され、グッときた。

感想 (58) あがり2016年10月23日

これまで読んだ本の感想 (その 58)。

このところ SF やホラーを選ぶことが多くなっていた。
今回も SF だが、日常に近い、といっても大学の研究室が舞台だから、やはり非日常と言うべきか。

o あがり - 松崎有理

5 編が収録された連作短編集になっている。
表題作「あがり」は、遺伝子の複製を限界まで繰り返す実験について描かれている。
興味深い話だったが、理系の人間なら、オチは予想できてしまうだろう。
ほかの作品も、著者が東北大学理学部出身のいわゆる「リケジョ」であることから、研究室や、実験、論文発表といった描写が生々しい。
最後の「へむ」は、今はもう忘れてしまった子供時代を思い起こさせる。
ほのぼのとした感じが好きだ。

感想 (57) てふてふ荘へようこそ2016年10月02日

これまで読んだ本の感想 (その 57)。

ホラーからの関連か、幽霊ものということで紹介されたのだろう。
後味の悪い作品が続いたので、ほのぼのとする表紙画像に期待して、読んでみることにした。

o てふてふ荘へようこそ - 乾ルカ

破格な家賃のアパート てふてふ荘 の住人とその同居人?のエピソードによる連作短篇集だ。
敷金・礼金なし、家賃 1 万 3 千円 のわけは、各部屋に成仏できない幽霊 地縛霊 が住みついているから、というまさにホラーな設定なのだが、なんともほのぼの、ふんわりとした物語だった。
人生を諦めかけた住人は、成仏出来ない幽霊に励まされ、次第に自分を取り戻していく。
そして、住人たちが成長すると同時に、同居人の幽霊も成仏する。
幽霊と現実世界の住人の交流、それぞれに ワケ があり、住人が地縛霊を通して自分と向き合った結果なのだ。
それぞれの最後はちょっと悲しいけれど、心温まる話ばかりだった。
ドラマを作ったら面白いだろうと思っていたら、2012 年 NHK BS ですでにつくられていた。